郡上おどりと盆踊り

郡上藩江戸蔵屋敷 vol.7 レポート


< ルーツを辿る、踊り講習 >

「郡上おどりって、綺麗に踊ることじゃないです。リスペクトが大事。どんだけ上手でも、神様仏様、そこにいる人、お囃子してくれてる人、踊ってる人、隣人をリスペクト無しには成り立ちません」

踊りに先立って、あつさんは声を大にして伝えます。会場の準備が整うと、全員で輪になることを支持するあつさん。隣の人とペアをつくり、向かい合わせ、お互いの動きが見えるようにして、郡上おどりの基本姿勢や動きを指導します。

「まず、まっすぐ立ってください。具体的には、くるぶしの内側の骨と、つま先の親組の付け根の骨をぴったりつける感じで、まっすぐ立つんです」

あつさんが一曲目に選んだのは、『三百(さんびゃく)』。苦しむ藩民たちが藩主の青山氏から援助を受けた時の感激と驚きを披露したものが起源であるとされる曲目です。

「これは農業の動きです。お百姓さんを想像してくださいね。今は田んぼには機械が入ってくれますですが。昔は自分の足で入りました。下駄よりもっとでっかい板に紐をつけて、それを自分で持ち上げながら歩くんです。だから、手と足の動きが連動するはずなんです。皆さん、ちゃんと連動してますか?」

そうやって具体的な情景をみんなの頭に描かせながら、どんどん動きを教えていくあつさん。

「昔は、神が降りてきてる場所で鍬を振る姿をすると、秋には五穀豊穣が約束されると信じられていました。これを『もどき』といいます。擬く(もどく)というのは、農作業という大元の動きを、別の場所で再説するということです。なぜ、これで約束されるのかというのは、現代の私たちには理解し難いものかもしれませんが、昔の人は、こうして霊的なものと繋がっていたんです。」

これまで郡上おどりで免状をもらっていたような上級者にとっても、目から鱗が落ちる話が満載でした。

次は、歩く動きに絞った講習です。『三百』の歩く動きに似たものが、郡上おどりにはあと3曲あります『古調カワサキ』、『やっちく』、そして『郡上じんく』です。それらの違いはどのようにつけたらいいのでしょうか?

「では皆さん、強いお相撲さんになって歩いてみてください。『俺はファイターだ、俺は強ぇんだ、っててアピールするように歩くと、それは『郡上じんく』になるんですよ。

ただ歩くだけに見える3曲も、何のために歩いているのかを理解できたら、それだけで踊りがかっこよく、美しく変わっていく。大げさに演出するのではなくて、ただ背景を意識するだけで、その曲らしさがでるのです。

「そういうことだったのか!」と多くのひらめきを与える講座に、参加者の熱はヒートアップ。その後行われた『春駒』や『カワサキ』の講習に対しても、全身を使って身につけようとされているのが伝わってきました。

『カワサキ』の手の角度を指導

手の振り落とし方をレクチャー

< 唄い返して、みんなで場を作っていく >

「単に手や足を動かすだけでなく、唄を返すというのが大事です。踊れなくても、声を発するというところに非常に重要な意味があるんです。それが、会場にグルーブを生んだり、ハーモニーを作ったりします。周りの人たちと『一つになった』と感じる状態ができた時に、感動が生まれる。それって、古代的なものを喚起させる力があるのではないかと思っているんです」

井上さんがそれに応えます。

「下駄を鳴らしたり擦ったりすることで、現在の時間を超えていく体験ができると思う。そういうところに神仏が宿るんです」

「そうそう、神様とのコミュニケーションや、会場にいる踊り子とのコミュニケーションが生まれるんです。それは、皆さんで作りあげるものなのです。だから、間違ったっていいので、黙って踊るよりかは唄って欲しいです」

唄を返したり、下駄を鳴らすことで、どんどん踊りのルーツに帰っていくことができるということを伝える講師たち。歴史を歴史として頭に入れるのではなく、参加者の一人ひとりが主役として実際にやってみることが重要なのです。ぜひ、郡上おどりを通じて太古とつながる体験をしていただければと思います。

これからの皆様の郡上おどりライフが変わることに期待いたしまして、おどり実習終わります。ありがとうございましたー!

『かわさき』のポーズで集合写真

田中 佳奈

百穀レンズ フォトグラファー、ライター、デザイナー。 1988 年徳島生まれ、京都育ちの転勤族。大学で建築学を専攻中にアジア・アフリカ地域を訪ね、土着的な暮らしを実践することに関心を持つようになる。辿り着いたのが岐阜県郡上市。2015 年より同市内にある人口約250 人の石徹白(いとしろ)地区に移住し、暮らしやアウトドアをテーマにしたツアー開発や、情報発信を行う。在来種の石徹白びえの栽培にも生きがいを感じる日々。2018 年、独立。