郡上おどりと盆踊り

郡上藩江戸蔵屋敷 vol.7 レポート


< 東京の盆踊り >

本日の最後の講師は、東京であらゆる盆踊りに足を運ぶ「盆オドラー」の佐藤智彦さん(以下、大ちゃん)。毎年、東京から郡上に駆けつけてくれている踊り助平のお一人です。

全国の盆踊りを知り尽くす佐藤智彦さん

「築地本願寺が“生みの親”、郡上おどりは“結婚相手”、白鳥踊りや拝殿踊りは僕を惑わす“愛人” 的な尊大です。徹夜踊りの4日間はとても楽しませてもらっています。日本各地の盆踊りに浮気していますが、一応、郡上おどりは僕の本妻です。笑」

そんな大ちゃんが盆踊りに目覚めたのは、2011 年のことでした。

「僕より少し年上だった男の人が、やけに盆踊りにハマっていて、なんでだろうと不思議だったんです。築地本願寺の盆踊りに連れていってもらったんですけど、その時に見事、開眼してしまいました。笑 それ以来、盆踊りは僕の生きがいになってしまいました」

築地本願寺の盆踊りは、郡上おどりと同様に、初日には法要があるそうです。また、踊りの最初と最後には仏教の音楽がかかるそうで、そんな雰囲気にハマったと大ちゃんは微笑んでいました。

東京の盆踊りは、実は会期は6月から10月の約5ヶ月と長いことがわかりました。開催数は、小さい会場の分を含めると400回近くあるとみられています。大東京音頭、炭坑節などが人気で、各地にあるご当地曲を目当てに踊りにいくことも楽しみの一つなのだそうです。

一般的に東京の盆踊りは、生の演奏でやることはありません。昭和の歌謡曲などをCD やカセットテープで流し、会場によってはそれに太鼓合わせるという工夫もありそうです。そういう形式であれば、小さな町やお年寄りだけの自治体でも、盆踊りを実施しやすいのかもしれません。

大ちゃんが用意してくれたスライドには、東京各地の盆踊りの写真や映像がずらり。東京で一番早い盆踊りである日枝神社の「山王祭納涼大会」、日本一美味しい盆踊りといわれる「築地本願寺納涼盆踊り」、東京で一番大きい盆踊りと呼ばれる「大江戸まつり盆踊り」、それから東京の佃島で行われる念仏踊りなどというマニアックなものまで、そのレパートリーの多さに圧倒されました。

東京の盆踊りの特徴は、意外と神社仏閣に根ざしたものが少ないことだといいます。そのかわり駅前広場などを使って、地域の結びつきを強くするきっかけとして活用させているものも多いのだそうです。

日本各地の盆通りを経験し、それぞれの良さを味わってきた大ちゃん。その中で、好きな踊りを1つだけ選ぶとしたら、それは郡上おどりになる、と告白。一体どこに、郡上おどりの魅力を見出しているのでしょうか?

「一番最初に郡上おどりに参加したのは、2012 年の郡上踊りin 青山でした。早速その年の夏に郡上へいき、徹夜踊りに参加しんたですね。土砂降りの中で踊っていて、覚醒してしまったんです。笑 自然の浄化によって踊りが変わっていくという、不思議な体験をしました」

「僕は、徹夜踊りの2時とか3時の時間帯が好きなんです。その頃になると、溢れるようにいた観光客が減ってきて、本当に踊りたい人が踊りにきているというような雰囲気なんですよ。そんな時に、古調ものとか、単調な曲を長い時間踊ってるとスイッチが入るんですよね。無意識なんだけど気持ちよくて、疲れてるんですけど、いつまでも踊れるような。いわゆる、ランナーズハイと呼ばれているものを、僕は郡上おどりで感
じてしまったんです」

東京だと、雨が降ったら中止、21 時になれば近所に配慮して閉会されるというものとは、全く逆の郡上の環境。都市部の人から見ると、土砂降りでも、朝になっても構わずに踊り続けるという郡上おどりの「狂気」が大きな魅力なのかもしれません。それは決して、天候や時間という要素だけではなく、それらが相まって神秘的な経験を引き起こしてくれる触媒でもあるのです。