【郡上藩MONO蔵屋敷vol.3 -4】暮らしをつなぐ味噌煮 〜愛と知恵の郷土食〜

「切り漬け」から見える種と風土のダンス

冬の味噌煮になくてはならない郡上の漬け物「切り漬け」。カブと白菜を切って塩で漬けただけ。だから「切り漬け」。濃コクな味噌煮に、これまた塩味の切り漬けを入れるのは、どうしてなんだろう。郡上人はしたり顔で言う。

「切り漬けは、浅漬けからだんだんひねてくるやろう。それをおいしょお食べるために味噌煮に入れるんやんな。」

入れる量は、鍋にひとつかみほど。乳酸発酵によって酸味が徐々に増してゆく切り漬けは、辛味のないサンラータンのような、酸っぱうまい複雑な味わいをかもし出す。もうこれなくしては味噌煮じゃないのでは、と思うほどに「切り漬け」の主役感が凄い。

確かに、辺境や極地の発酵食には、発酵し過ぎて腐っているんじゃないかと思わせる動物性の肉漬けが多いわけだが、郡上ではほんの少しの干し肉「身欠きニシン」を入れた麹による「ニシンズシ」、そして12月に漬けて春まで食べ続けるこの「切り漬け」、さらに夏越えをさせて半年間は漬けてから食べる「ひね漬け」が存在することを思うと、やっぱり郡上人の冬の間に食べ繋いでいくための術、保存食の層の厚さ、そして発酵してゆくことで生まれる酸味を称揚する自然観を思わずにはいられない。

一方、ここまでシンプルな浅漬け型の「切り漬け」が、おいしいね〜、となるのには、2つの具材であるカブと白菜がそもそも美味しくないと成立しないだろう、とあちこちで頂く「切り漬け」を食べながら思っていた。特に驚いたのが、郡上高鷲の地野菜「鷲見(わしみ)かぶら」で仕込んだ切り漬けだった。鷲見かぶらの水々しさ、その甘い清々しさに感動し、わが郡上藩江戸蔵屋敷の味噌煮セットは、鷲見かぶらの切り漬けの他にはない、と育てている現場をたずねることにした。

12月初旬、高鷲で地野菜やマコモなどの農作物の栽培をしている谷口くるみさんの畑ではちょうど鷲見かぶらの収穫期。マゼンタ紫か、躑躅色のようなピンク色の強い鷲見かぶらが、噴水のように葉を繁らせた頭を見せていて、それをガボッ、ガボッと抜いていく。ハート型の実から、小さなヒゲ根をそぐようにその場でカットして、ひとかたまりに葉ごと束ねておく。そして作業場に運んで葉と実を切り分け洗いに入る。

そこで実に興味深い試食が行われた。片方は無肥料で育てられた鷲見かぶら。もう一方は、有機肥料で育てられた同じかぶら。どちらも無農薬。先入観なく判断するぞ、と切られたそれを食べてみたら、圧倒的に甘くて水々しいのは無肥料のほうだった。意外なことに有機肥料のほうは、なんだか疲れたように味気なく、水々しさも断然劣ってしまう。

これだけの大差が出るのには、鷲見かぶらが地野菜として、鷲見地区の土壌において種をつなぎ続けたからではないか、と想像してみる。野菜の味わいが土壌の状態で決まる、だろうからこそ、土を肥やそうするわけなのに、無施肥の自然栽培のほうが、鷲見かぶらのポテンシャルがめいいいっぱい発揮されてしまう。これは自然栽培という方法の恩恵というよりかは、鷲見地区の土でこそ種を繋いできた地野菜そのものの記憶に通じているのではないだろうか。

12月中旬、カブラと同じく鷲見で育てられた白菜を一緒に切って全体の量に適した塩をまぜながら、樽に押し込み押し込み漬けてゆく。漬け終わってから重石をいくつかのせておくと、数日後には全体がすっかりつかるほど水分があがってくる。そうなると重しを減らし、早くもシャッキシャッキの浅漬けとして食べられる。手間としては、すごくシンプルで、大量の野菜を洗うのに水は冷たいが、そこで世間話をしながらの仕込みはとても楽しい。漬け込まれる野菜たちもすごくキラキラして、冬の準備ってこんな一体感から始まるのだと身にしみた。

そんな鷲見かぶらと白菜の「切り漬け」が、現在江戸蔵で販売中の「冬の味噌煮セット」に入っている。「切り漬け」は、いわば家庭かおすそ分けで消費されるため、実は郡上でも購入することは難しい。今回は漬物業もされる谷口さんの「丸谷庵」の仕込みに預かることで、江戸蔵から限定発送されることになった。そこから教えられたのは、地野菜がもつ種の記憶、そこにしかない土壌が生む味わいだった。

私たちが引きずっている、それしかないからこそ生まれた豊かさ。「味噌煮」が「ひきずり」と呼ばれざるを得ないものが、そこにある。土地と切り離せない生き物のダンス、目に見えないかぐわしさや味わいが煮え立つように蠢いていることを、私は「味噌煮」から教えられている。

【郡上藩MONO蔵屋敷】

vol.3: 暮らしをつなぐ味噌煮 〜愛と知恵の郷土食〜(郡上藩江戸蔵屋敷)

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