【郡上藩MONO蔵屋敷vol.3 -2】暮らしをつなぐ味噌煮 〜愛と知恵の郷土食〜

味噌煮というバラエティ

味噌煮は郡上の家庭にしかない。出会い頭に、味噌煮について尋ねてみると、ほとんどの郡上人が味噌煮を食べ続けていて、今日も食べました、という人が少なくない。そこで話題になるのが何を味噌煮に入れているか、である。

筆頭は「切り漬け」だ。三世代にわたる郡上人の家庭では、白菜とカブなどを塩で漬けた「切り漬け」がちょうどこの12月に仕込まれている。初めはほどよく浸かった「浅漬け」を味噌煮に入れることになるが、半月もすればだんだんと発酵して酸っぱくなってゆく。このひねてきた「切り漬け」をいれると、地味噌の渋味に酸味と甘味が加わって、味噌煮に複雑な味わいが生まれるのだ。

一方で、猟師でもない限り四つ足の肉や、鮮魚を手に入れることが難しかった郡上では、長らく味噌煮に肉が入ることがなかった。そのかわりとなっていたのが、畑のお肉ともいわれる豆腐だ。かつては味噌と同じく家々で作られていた豆腐は、貴重なタンパク源であった。

ムシロを二つに折って綴じた袋である「叺(カマス)」に詰めた塩をかけておくと、土間や味噌蔵の湿気を吸うことで、高濃度のニガリが滴となって垂れてくる。それを豆腐用の臼でひいてこした豆乳に入れて押し固めると豆腐ができあがる。この「昔ながらの豆腐」に、地味噌はほどよくしみて、ハンバーグのような肉々しい旨味を作り出す。この味わいも一度体験するとやめられない。

興味深いのは、戦後になって缶詰食品が出回ると、郡上の高鷲地域では「サバ缶」が味噌煮に入れられ始め、今でもそれを好んで食べるという。また大和地域では「ツナ缶」が入れられるなど、保存が利くうえに貴重な油まで摂取できる缶詰肉文化は、保存食の先輩であり出汁ともなる漬物文化とも響き合っている。缶詰は漬物と同じく物の送り合い、急な頂き物への返礼、交換物としても使われるほどに常備されていたことで、安定して食べ続けることができる、ということにおいて重要だったのだ。

またダイコン、ネギ、ナスといった旬の野菜は、味噌煮を埋める必須の素材となってくる。特に味噌煮を食べられる郡上八幡の飲食店「大八」の家庭では、味噌で黒くなったナスが鯨肉に見立てられていたため、味噌煮そのものを「クジラ鍋」「クジラ」などと呼称するなど、ここでも肉汁、肉煮としての見立てが生かされている。ナスは夏から秋にかけて半年近く食べられるうえに、味噌がよくしみる素材として好都合だっただろう.

味噌煮は、小さな土鍋やホーロー鍋で煮られるのだが、水分がとんで煮詰まり過ぎると、番茶などで水分と具材を加え続ける。お玉ではなく、箸でつつくので、最後にはドロドロになった味噌が鍋に残ることになる。よって翌日には、またそれに具材を加えて食べるという文化ができあがる。一説にはここから「味噌煮」を「ひきずり」という言い方が生まれたらしいのだが、この2日目の味噌煮に生卵を割入れるという話もよく聞く。白身がかたまってきたところで、黄身をつぶして頂くという具合だ。

こうしてみると戦後は肉食が入って来たこともあり、一見ご馳走のように見えるが、入れたのは白菜の菜っ葉だけとか、20代の女性から実家はネギだけです、なんて話も聞いた。つまるところ、この中山間地域で手に入れられるもの、自給できるものを何でも入れたのだということになる。そして、それをご飯にのせて食べたわけだが、米を今のように食べられなかった時代は、麦やヒエが多くを占めていたわけで、今、味噌煮を白米で何杯も食べられるというのは、味噌煮史上最も幸せな時代なのかもしれない。

繰り返すが味噌煮は家庭によって違う。最初に出汁となるうむし(煮干し)を入れるのか、その前にうむしの腹わたをとるのかどうかでも違うわけだから、いったん郡上人と味噌煮の話を切り出せば、そこでは各家庭の味噌煮のバラエティ劇場となるだろう。

郡上以外では通じない話であり、わざわざ地元の人の間でも持ち出さない話題であるからこそ、郡上人から聞き出す味噌煮話はどこか面映(おもはゆ)く、恥ずかしさも見え隠れする。それでいて、誇り高く語る人もいれば、「これしかなかったんや!」という苦渋と懐かしさの表情も混じりあう。多忙な主婦にとっては、最も手軽な料理だったからこそ、いつだって味噌煮に頼ることができた。

それは表向きには決して見えてこない郡上人のソウルフードである。今この瞬間も、郡上人の無数の記憶と風土をぐつぐつと煮立たせていることが、味噌煮にしかない深い旨味をかもし出していることは間違いない。あなたの家の味噌煮には何が入っているのだろうか。

【郡上藩MONO蔵屋敷】

vol.3: 暮らしをつなぐ味噌煮 〜愛と知恵の郷土食〜(郡上藩江戸蔵屋敷)

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