【第3章】「奇跡の本づくり」

#仕事 

黒くてやわらかい手漉きの紙に、手ずからのスクリーン印刷ですられた生命樹たちの数々。

一色ずつ紙に定着していくプロセスが、絵本全体の奥行きと、描かれた彩度のメリハリを生み出して、あたかも南インドの村で毎夜眠りながら見た夢のような本だ。

『夜の木」は2008年にボローニャ・ブックフェアでラガッツィ賞をとり、現在10万部に近い売り上げだ。日本でも2012年にタムラ堂から日本語版が登場して以来、3000部刷られた10刷目が完売し、11刷が予定されているそうだが、どれだけ予約が殺到しても年の印刷数は変えないという社勢がある。

会社や利益を大きくすること、多忙になることに意義はないと2人の女性からなるディレクターが判断しているのだ。

社員50人に満たないというインドチェンナイの出版社「タラブックス」から生まれる本の2割がこうした、コットン古布を粉砕して漉かれた紙を使い、スクリーン印刷で刷り上げ、糸でかがる製本までもが自社によるハンドメイドだという。

全てが機械化してゆく現代の本づくりとは、まるで逆行しているかのようなプロセスだが、他の8割の出版物では現在常用されているオフセット印刷も使うというバランスがある。

そしてオフセット印刷機械であれ、ディレクターはインドの古典や神話の再録を得意し、少女や無名のアーティストたちのビジョンを拾い上げることに長けている。それはトライバルアーティストや職人、女性たちが大きな格差を被ることへの闘い、れっきとした社会運動でもあるのだ。

なぜこのような本づくりが可能なのか。人、素材、お金、生産システム、極私的な営みといにしえの物語・・・、目に見えないものの含んだ全てが有機的なつながり、無理のない循環が、美を、本づくりという生き方、しなやかさを生み出しているのだとしたら。

加藤さんが2021年の夏の滞在で発見した「郡上≒スクリーン印刷」によって、私たち郡上藩江戸蔵屋敷チームは、以前から加藤さんを知っていた仲間も含めて、あらためて人と、郡上と、出逢いなおすことになった。描く、刷る、重ねる、誰と、どこに、何に?本、雑誌、テキスタイル、オブジェ、壁、、、。

スクリーン印刷と本づくり、紙とインク、郡上という風土と地場産業、未知の分野の掛け合わせを夢想して、得体の知れぬ創作のエネルギーが溢れ出してきていた。加藤さんたちと山奥の家で夜通し語り合った時、空には満天の星が広がっていて、私たちは寝ころがっていくつもの流れ星に狂喜した。そして、空が次第に明るくなる中、これからどんな未来を描いていこうとしているのか、予感にうちふるえていた。

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