郡上おどりと踊り下駄

郡上藩江戸蔵屋敷 vol.6 レポート


■ダイジェスト■
今年度の郡上藩江戸蔵屋敷がついに開幕!第6回目のテーマは「郡上おどりと踊り下駄」。前半は、下駄職人・諸橋有斗さんによる講義と鼻緒すげワークショップを、後半は國枝あつさんによる「郡上おどりクイズ」と濃厚な解説トークを実施しました。踊り助平ならではの話が端々に登場し、会場は頷きや笑い声に包まれました。さて、自分の手で作った下駄のはき心地はいかに?!そして、今日はどんな「郡上」と出会えたのでしょうか?

今回の会場は、青山1丁目にあるGlocal Café 南青山。天井から吊るされた竹竿には色とりどりの鼻緒が飾られ、左右の壁には郡上おどりの写真パネルがいくつも並べられました。空間全体には郡上おどりのお囃子の音源が響き、郡上おどりの開幕を予感させる雰囲気です。

受付を終えた人から順次、下駄を手にします。「他に気に入るものがあったら交換してもらって構いません」と、聞いた途端に皆さんの眼差しが様変わり。ひとつとして同じものがない下駄をまじまじと見比べていました。

それでは前半の講義の始まりです。

講師は、郡上木履の諸橋有斗さん。愛知県尾張旭市出身。岐阜県立森林文化アカデミーで木工を専攻。卒業後郡上に移住し、2014年に「郡上木履」を立ち上げる。

郡上おどりと踊り下駄入門

郡上おどりは、徳島の「阿波踊り」、秋田の「西馬音内の盆踊り」と並び、日本三大盆踊りの1つ。国指定重要無形民俗文化財にも指定されています。7月中旬から9月上旬の約30日が踊りの日にあてられ、毎年約30万人が来場します。会場は日替わりで移動するため、期間中は郡上八幡の街中全体が踊りの舞台となります。
 
一層の賑わいを見せるのは、8月13日から16日までの4日間に行われる盂蘭盆会(うらぼんえ)。夜8時から朝4時、5時までお囃子が鳴り止まないことから、俗に「徹夜おどり」と呼ばれ、全国でも類いを見ない踊りとして年々注目を集めています。

諸橋さんのスライドには徹夜おどり終了後の明け方に撮影されたという、地元住民ならではの写真が紹介されました。「辺り一帯が白っぽくなっていたんです。地面中が木のクズになるくらい下駄が消費されています。」/写真提供:郡上木履

日本有数の踊りの中でも、下駄の音を鳴らして踊るのが郡上おどりの特徴です。そんな踊りに欠かせないアイテムですが、諸橋さんが郡上にこられた頃は郡上では下駄の生産がされておらず、そのほとんどを静岡など他府県から入荷していたそうです。郡上おどりが驚異的に賑わうようになってようやく、踊り下駄の需要が増してきたのです。

下駄を作りはじめた頃は、木材も鼻緒も他所から入荷していたという諸橋さん。総土地面積の90%を森林で占める郡上市に工房を持つのであれば、郡上市内で完結させらせる下駄を作りたいと考え直し、今では郡上市産の木材を使用されています。

郡上おどりに適した下駄を求めて

多くの方々の意見を取りいれて完成した郡上木履の踊り下駄。真っ先に求められたのは、音の良さ、そして、少しでも長い期間履けるようにするための工夫でした。他の下駄と何が違うのか、郡上木履のこだわりをききました。

・ 音へのこだわり
音が何よりも大事ということで選ばれたのがヒノキ材。一般に普及しているのは、とにかく軽いキリやスギ材ですがその分減りも早いため、より丈夫で、綺麗な音の鳴るヒノキをつかっています。

・ 高さへのこだわり
郡上おどりは歯のすり減りが早いので、通常のものより約1cmい5cmにカット。このわずかな差によって浴衣姿がより綺麗に見えるという嬉しいポイントも。

・ カタチへのこだわり
歯が交換できる付け歯式のタイプが一般的ですが、丈夫さを優先させると一体型が勝るので、下駄材は一枚の板から丸ごと切り出しています。

・木の使い方へのこだわり
木目も気になるところ。郡上木履の下駄は9割が板目、つまり山のような模様ができる切り出し方をしています。呉服業界では、平行な線があらわれる柾目の下駄に価値があるとされている

また、木は原則として「芯に近いほど硬くて丈夫」。この特性もフルに活かします。踊り下駄柾目は芯を通るように切り出すので、左右で木の硬さに差が出てしまい、欠けやすくなるのです。その点板目は、左右均等ですのでその心配が抑えられます。その堅さのルールは下駄の表裏にも適応。より丈夫に使えるように硬い方を裏(地面側)にし、より足あたりのいい柔らかい方を表(上側)にとってあります。

転載元:「フローリングナビ」http://jafma.gr.jp/qa/word/

・鼻緒へのこだわり
当初から藍染、シルクスクリーンプリント、こぎん刺しなどの郡上市の地場産業とコラボした鼻緒を展開しています。今年からは有松絞りやリバティプリント、インドやタイで制作された刺繍リボンなど、華やかで上品な鼻緒を多方面から取り揃えています。

下駄と言われても、値段や木目の違い程度しか考えたことがなかった私たちにとっては初めて知ることばかりで、前のめりになって聞いてしまいました。

郡上市に限った話ではありませんが、戦後の拡大造林以降は間伐が遅れることによって木の価値が低下する悪循環が起きています。郡上木履が使用しているのは、それら樹齢60年程度の木々です。「うちの下駄の歯が減れば減るほど郡上の森林がよくなる。ぜひいっぱい踊って、履きつぶしてください」と、諸橋さんはどこか誇らしげな表情で語りかけていました。

市・林務課が作った冊子を用いて解説。郡上市の森林の現状や成り立ちについて記載されている。