獲って喰らう!真の旨いを体験する。

郡上藩江戸蔵屋敷 vol.9 レポート


<駆除された動物たちの命に寄り添う商品を>

猪や鹿の恵みは、食肉としてだけではありません。皮や骨、ツノなど、肉以外の恵みを利活用する取り組みも、近年では注目の的とされています。

そんな取り組みを郡上で実施しているのが、本日のもう1人の上り人、奥村文乃さん。本会場には、彼女が試作している革製品のブースも用意され、多くの方々に商品を手にとっていただきました。

奥村さんは、郡上市のご出身。しばらく地元からは離れていたものの、6年前に郡上にUターンしてこられました。山の中に感じる「圧倒的な生命力」に魅了されると同時に、獣害の被害や、駆除されてしまう野生動物の現状に心を痛めるようになったそうです。

「農家さんたちからすると鹿さんたちは“厄介者”と思われがちですが、私はそういうふうには思えないんです。それは、なぜ畑を荒らすのかを考えたとき、鹿たちは生きるため、必死に食べにきてると思うからです。

農家さんたちの苦しみも分かりますし、獲るしかない猟師さんたちの心の痛みもわかります。それらを知ってしまった以上は、『動物たちの命に寄り添える活動』をしていたいと思うようになりました」

現在は、“Deer to Dear”、つまり、“鹿から親愛なる◎◎さん” というコンセプトで、いただいた大切な命を新しい形に変え、長く、そして大切に使っていただけるアイテムを開発されています。

商品化を待つばかり?!の試作品を紹介していただきました。

まずは“ベビーシューズ”。

「『素敵な靴をはくと、素敵な場所へ連れて行ってくれる』というフレーズを聞いて以来、自分へのご褒美にはずっと靴を選んできた」という奥村さん。そういう思いを込めたベビーシューズを新しく生まれるお子様に贈ることができたらどれだけ素敵だろうかと思って作りはじめたそうです。

そして、“踊り下駄の鼻緒”や“皮のネクタイ”。結婚3年目は別名「皮婚式」と言われることから、3年をともに過ごした夫婦が鼻緒をお互いに送り合うことをイメージされたとのことです。

開発されているのは商品だけではありません。子どもたちに“命の大切さ”を伝えるためのワークショップも出店されるようになりました。ワークショップで制作する、鹿のツノで使ったお守りのネックレスは、削っていくと獣の匂いが出てきたり、触感が変わったりと子どもたちには刺激的で、好評だそうです。

こちらは、有松地区の作家さんに有松絞りをしていただいた鹿皮。長良川と吉田川をイメージしたものや、郡上の星空をイメージしてたものなど、斬新な革製品が展示されており、参加者も近くに寄って見つめていました。

「命のすべてを無駄にせずいただいてきた歴史がある。それを郡上市みんなの力で、命のサイクルを回せていけたらと思っています(奥村さん)」

<最後に>

本日は「真の旨い!」を届けることを通じて、森と命のつながりについて体感し、学んでいただく機会をつくらせていただきました。

獣害は郡上市だけでなく、日本中で深刻な問題となっていますが、自然界の中では色々な役割があって、命が循環している。今回の企画ではそんな多様な側面が、捉え方があることを感じていただけたのではないでしょうか。

郡上市には、今回の上り人の『猪鹿庁』さんや奥村さん以外にも、野生動物に関わる多様なプレーヤーが活躍しています。最後の奥村さんの言葉にもありますように、郡上市一体となって、獣害ということに向き合いながら、里山環境、地域環境のあり方についても考えていけたらと思っています。

ご参加いただいた皆さま、カフェのスタッフさん、郡上の猟師さん、そして今回の企画で命を分けていただいた多くの野生動物たちも、どうもありがとうございました!

田中 佳奈

百穀レンズ フォトグラファー、ライター、デザイナー。 1988 年徳島生まれ、京都育ちの転勤族。大学で建築学を専攻中にアジア・アフリカ地域を訪ね、土着的な暮らしを実践することに関心を持つようになる。辿り着いたのが岐阜県郡上市。2015 年より同市内にある人口約250 人の石徹白(いとしろ)地区に移住し、暮らしやアウトドアをテーマにしたツアー開発や、情報発信を行う。在来種の石徹白びえの栽培にも生きがいを感じる日々。2018 年、独立。